ハイテク歯科治療 (Part I)

誰もができれば避けたい虫歯治療。麻酔の不快感、歯を削る時の音と振動、どれをとっても気持ちのよいものではありません。いろいろな分野でめまぐるしく進展しているこの21世紀。歯科学にもさまざまな最新テクノロジーが応用され始めています。まだ実用化されていないものもありますが その中からいくつかご紹介しましょう。

3Mix-MP法

この治療法は日本で開発されたもので 虫歯の細菌を薬の力で無菌化し、組織の修復を自分の”治す力“で促す治療法の一つで、「3Mix-MP法」と呼ばれています。3種類の抗菌薬を粉末にして、MP という基剤と混ぜてペースト状にし、それを虫歯の穴に置いて、上からセメント・樹脂などで密封すると、基剤から抗菌薬が少しずつ放出されて歯の隅々にまで 浸透していき、歯全体を無菌化します。
この無菌化により、生体の自然治癒力が発揮され、虫歯の部分が数週間ほどで再石灰化され硬い歯質に修復されてくるというのです。3Mix-MP法の開発者の一人である仙台市で歯科医院を開く宅重豊彦歯科医によれば、レントゲンでは最初は黒く写っていた虫歯の病巣も、カルシウムが沈着してくるため、だんだん白くなってくる実例がすでにあるそうです。またその3種類の抗菌剤の組み合わせを発見した新潟大学歯学部の星野悦郎教授は、虫歯の原因菌には多くの種類があり、1つの抗菌剤ですべての菌を殺すことはできなかったが、3種類を組み合わせることで100%殺菌することに 成功したそうです。当初は治療効果が安定しなかったそうですが、宅重歯科医がマクロゴールとプロピレングリコールという2つの基剤を混ぜることで、抗菌剤が患部に効率よく届く ように改良されたのが3Mix-MP法です。この新しい治療法は日本では現在限られた歯科医院で行っていますが 残念ながらアメリカではまだ認知されていません。

“削らない、痛くない”治療法と言われていますが、全然削らないわけではなく、削らないと歯とセメントの接着は困難なので 上部の虫歯の部分をドリルで削り除去する必要があります。そして薬挿入後、その表面を何かの詰め物でふたをして終了です。

既存の治療方法よりこの治療法の方がメリットがあるようにある所では書かれていますが、今のところ既存の治療方法で可能な場合は既存の方法でするのが原則です。しかし嫌がる小さな子供さんの虫歯治療などには最適かもしれません。

Carisolve (カリソルブ)

これはスウェーデンのMedi Team社が開発したもので 歯に塗ると虫歯部分だけを除去してくれるという薬です。次亜塩素酸ナトリウムとアミノ酸などのゲル状の溶液を 混ぜてから歯に塗ると、虫歯によって変性したコラーゲンの部分に作用して虫歯菌を浮き上がらせる。これを専用の道具でかき取ると虫歯部分を除去できるという新治療です。
薬剤塗布による痛みはないため、この方法も治療時に痛みを感じさせないといううれしい話です。ただし、カリソルブによる治療は神経にまで到達するような進行した虫歯には使えません。この治療法もドリルを使わないので、不快な音や振動がなく、恐怖感を感じないで済みます。ほとんどの場合 麻酔なしででき、虫歯周辺の健康な部分まで削らないでいいなどのメリットがあります。この治療法はアメリカFDA(厚生省・食品医薬品局)から許可されてはいますが 完全に虫歯が取れない可能性もあるなどの弱点も指摘されていますので、まだ改善していく必要があるようです。

このように色々と画期的な新治療法が生み出されています。そのどれもができるだけ不快感や痛みを少なくすることが可能な方法で患者さんにとってはうれしい話ですが、まだ改善されている段階で、どの歯科医院でも日常的に使用されるようになるのは数年後になるでしょう。