日本人は常に清潔に気をつかい、お風呂が好きで匂いに敏感、そして実に国民の96.2%が歯磨きの習慣があるという世界に例が無いほど綺麗好きな国民です。また、「甘いものを食べると虫歯になる」という<虫歯予防の常識>が広く知られており、砂糖の消費量は世界でも少なく、欧米に比べてお菓子の消費量も多い方ではありません。ところが、口の中のコンディションは先進国の中では比較にならないほど悪く、「入れ歯大国」などと不名誉な称号を受ける始末です。残念ながら戦前より続く国を挙げての虫歯予防運動は、十分な実績を上げることが出来ておりません。これはどうしたことでしょうか。
日本人ほど健康に気を使う国民はいないといわれます。テレビをつければ健康情報番組が放送されない日は無く、書店には健康関連の雑誌や書物が溢れ、特集された食物がその日の夕方には売り切れる現象の起きる国。毎年の健康診断を欠かさず、病気の予防に力を入れている反面、口の中の健康予防はいかがでしょうか。
残念ながら日本では虫歯の予防に力を入れるどころか、「虫歯予防」に関しては、その多くが保険の適用を受けられません。これは「悪くなってから治療をする」ということに他ならず、歯医者に行くのを躊躇っているうちに状況が悪化し、自分の痛みとともに懐(ふところ)も痛くなってしまった方も多いのではないでしょうか。
ここアメリカでは口内の健康を予防するために、大半の人が半年に一度歯医者に通い、定期健診(Check up)を受けています。「早期発見、早期治療」が徹底しているためか、歯科保険も「予防」に関しては大よその金額がカバーされ、検査とともに必要なX線撮影、クリーニング(歯石除去)、子供の場合はフッ素塗布もその対象となっています。日本の保険制度からすれば羨ましい話ですね。
歯科検診はただ単に虫歯の有無のチェックだけではありません。歯茎の検査(出血、腫れの有無、歯の揺れ、歯周ポケット)、顎関節の検査(口の開け閉じの動き、関節の状態、、、)、時には口腔内の癌検査など色々な道具、またはレントゲン写真などを用いて、様々な角度から口の中の状態を確認します。
そして歯のクリーニングでは磨ききれていない歯の汚れや歯石を取り除き、歯と歯茎を健康に戻します。この時にある程度の色素の沈着も取れ、本来の歯の色に戻ります。
検診で何か問題が見つかった場合には、診断と必要な治療の説明を行います。また、歯の磨き方や口の中の衛生管理の方法などの説明を受けることもあります。
虫歯や歯周病は一種の感染症です。様々な要因が複雑に重なり合って起こり、薬が効かず、はっきりした自覚症状(痛みや腫れ)が起きた時にはある種手遅れの状態で、もう元どおりにはなりません。また、歯並びや唾液の性質は遺伝的な違いがあり、虫歯の原因菌の感染や飲食習慣は、多くの場合子ども自身の問題ではなく、家庭の問題です。つまり、生活習慣や口の中の予防対策は親の影響・責任が大であり、家族皆で口の中の健康も予防・維持していく必要があるということです。
家族皆の口内予防ということで、次号からは年代ごとの口の中の特質や注意点などを取り上げてみようと思います。まずは生まれる以前の話、胎児期/妊娠中のママの注意することです。
最近の患者さんは虫歯の予防に対する意識が高く、特にお子さんの歯を守ろうとするお母さん方が多いのは喜ばしい限りです。