ハイテク歯科治療(Part II)

今回は前号のハイテクを取り組んだ歯科技術の続きで今話題になっているバイオテクノロジーの歯科応用についてご紹介しましょう。

ティッシュエンジニアリング

従来の歯科治療ではさまざまな人工材料を使ってきました。しかしこのティッシュエンジニアリング法では、従来の詰物に使う硬貨レジン、金属、セラミック治療法とは まったく異なるコンセプトです。すなわち、無生物の歯科材料ではなく、生理活性物質を用いて生きた歯あるいは歯質を再生させるという治療法です。

象牙質にはエナメル質と同様に血管は存在しませんが、エナメル質と異なる点は、象牙芽細胞が生き続け、持続的に象牙質をつくり続ける性質があることです。この性質と象牙質から分離されたBMP(骨形成因子Bone Morphogenetic Protein)を用います。BMPは骨マトリックス(母体)だけではなく、象牙質マトリックスにも存在するものなので使いやすく、窩洞に詰め込まれた象牙質BMPとmixされた成分が象牙芽細胞を刺激して象牙質を再生させるというものです。すなわち虫歯になった歯が元どおりに再現されるという方法です。

胚性幹細胞

今ニュースで大変話題になっているES細胞。倫理的問題もありますが、パーキンソン病、脳梗塞、糖尿病などの難病を治療できる可能性や臓器再生治療に期待がよせられています。

胚性幹細胞(Embryonic stem cell: ES細胞)とは動物の発生初期段階である胚盤胞の一部に属する内部細胞塊より作られる幹細胞株のこと。生体外にて、理論上すべての組織に分化する全能性を保ち、増殖させる事ができるため、再生医学への応用は無限な可能性があるのです。このES細胞を使えば人体のすべての組織、臓器を作れると言われています。

ES細胞の分化調整機構がわかり、目的の臓器形成が確実にできれば、顎骨に移植されたES細胞から、やがて歯胚の再生、すなわち歯もできるようになるというのです。

しかし、この夢のような話は現実的になるには十数年はかかるでしょう。

また自己の細胞をとはいえ、自分の免疫が自分の細胞を攻撃する、自己免疫疾患やアレルギーが頻発する現代においては、必ずしも拒絶反応がなく、長年安定するとは言い切れないかもしれません。

また、現在の臓器移植に多額の治療費がかかるように、このような最先端の実験的な治療法は、高額な治療となる可能性があります。一般の方が受けられる範囲の治療費になり、安全面も確立するまでに、どのくらいの年月がかかるのか今の段階ではわかりません。

次号ではもう夢ではなく現在日常的に受けられる、無くなってしまった歯の再生法・インプラントについて詳しく書いてみます。

参考文献
the Quintessence Vol.20 No.1/2001-71